一枚の革で作り揃えるという“遊び”(スタッフRのセミオーダーバッグ第二弾)

こんにちは。スタッフのRです。
本格的な梅雨到来の前に、東京は早くも暑くなってきました。ご自愛くださいね。
さて今回は、そんな暑い夏にぴったりの爽やかなバッグを、工房にセミオーダーした話をさせてください。

「3年前にも作って、今回が2本目」

物持ちスタッフRがバッグをセミオーダーしてみた。

前回、自分用に、細部まで凝りに凝りまくったデイリーボストンをセミオーダーで仕立ててもらってから丸3年。丈夫な革なのでくたびれた感もなく、オンオフどちらにも使えるインクブルーカラーなので、仕事に休日にと重宝しています。

ただ、コロナ禍のご時世で、車通勤が多くなったり、休日のボランティア活動でも対面での打ち合わせが減ったりと、多くの荷物を動かすことが減りました。また、タブレットPCやスマートフォンの性能向上で、ノートPCや一眼レフがどうしても必要という日も減って、ここまでの容量じゃなくてもいいかな、とも考えるようになりました。

そのため、三年ぶりに、新しいバッグをひとつ作ってもらうことにしました。

「今回のコンセプトは4つ。ただし…」

仕立てるにあたり、いくつか基本方針を立てました。

1)デイリーボストンで使い勝手が良かったワープロラックスカーフ製
2)爽やかなカラーで、カジュアルに使えるショルダーバッグ
3)美術館やお芝居のフライヤー(A4サイズ)を曲げずに入れられるサイズ
4)休日の散歩の時に、ミラーレス一眼のレンズをすぐに取り出せるポケット

これらに基づいて、過去帳からデザインを選定していきました。

一から「ぼくのかんがえたさいきょうのバッグ」を作ってみようとすると、欲張りにあれもこれもと盛り込みすぎて、構造として成立しなかったり、要件が衝突してしまって決めきれなかったり、なにより格好悪くなったりということになりがちです。
その為、社内で自分用に仕立てる場合でも、基本は、過去にリリースしたデザインのバッグを元にして、基本方針を定めていく。その上で、素材や細部の使用を使い易いように指定していく「セミオーダー」のかたちで、工房に注文することになっています。

ただ私も、仕立ててもらうのは2本目になりますので、ただ作るだけでは面白くありません。
piccinoの者として、日々、バッグを持ち歩くときに、素敵だなと周囲の目を惹いて、ちょっとでもご興味を持っていただけるような、新しいアイデアをご提案できるものにしたいなあと、実は半年くらい考えておりました(^◇^;)
そして今回、実施したのが、

「一枚の革から、バッグと揃いで小物も同時に仕立てる」

という遊びです。
実際にやってみたら、こんな感じに出来上がってきました。

「ハンティング風バッグで、Shot(撮影)を楽しむ」

メインのバッグの原型は、15年ほど前にジャージー牛ソフトレザーを素材としてデザインされたJJ-7型。その後もいくつかの素材に載せ替えられ、長くご愛顧いただいているデザインです。

このバッグの特徴は、おおきなかぶせ(冠)と差し込み。そして二つ並んだ張り出しのファスナーポケットです。ハンティングバッグを思わせるディティールが、カジュアルさを醸し出します。

この二つ並んだポケットが、このデザインに決めた大きな理由です。
私は街歩きが趣味で、たとえば昭和の建築の凝ったデザインの窓枠や、暗渠が隠れているであろう蛇行した路地などを見かけると、一枚撮りたくなります。
その時、被写体によっては、望遠レンズと広角レンズを付け替えねばならず、道端で立ち止まって、バッグの中を探らなくてはならなかったのです。なので、それぞれのポケットにひとつずつ仕込んでおけば、すぐに取り出せるだろうなあと。いわばカメラバッグのように使うつもりです。
ハンティング、つまり狩猟(射撃=Shot)用バッグを元にしたバッグを、カメラの撮影(Shot)用に使うのは、理に適っているのではないかと思います(о´∀`о)

※私が愛用しているカメラは、旧OLYMPUS社製のPENシリーズです。マイクロフォーサーズ機で、レンズがコンパクトなので、このポケットでも望遠レンズが収納可能でした。APS-C機以上のマウントでは、パンケーキレンズ以上のサイズは、入らないかもしれません。

レンズを出し入れすることを考慮して、ファスナーの虫(エレメント)で傷がつかないように、ニッケル(鉄)のファスナーから、コイル(合成樹脂)のファスナーに変更しています。
また、ポケット内部は、革の床面(裏)そのままで裏張りしていないので、細かい繊維が粉になって精密機械に入り込まないように、床面に目止め(薄い接着剤の液体を塗り込めて繊維を落ち着かせる)を施しています。


裏から見るとこんな感じ。
広いファスナーポケットにはスマートフォンや束入れをストンと滑り込ませられます。

A4のクリアファイルが楽に入るやや大きめのサイズですが、柔らかい革で柔軟に形が変わること、ブルー系は寒色であり収縮して見えることもあり、ことさら大きい!という印象はなく、すっきり持てます。
ワープロラックスカーフのアクアブルーは、とても爽やかで上品な色味で、男性である私が持っても派手すぎず、明るい印象を与えてくれます。

「セミオーダーの魅力」

かぶせ(冠)の裏は、既存の設計では共革で裏地を付けているのですが、今回はあえて裏なしの一枚としました。ワープロラックスカーフは床面(裏のこと)の繊維もとてもきれいで、スエードのような気持ちの良い手触りなので、それを魅せるかたちに。
また、私が十年近く愛用している束入れが、同じワープロラックスカーフ製で、裏なしのかぶせのデザインなので、それとの連続性を持たせたという意味合いもあります。

天ファスナーも、既存の設計から変更しています。本来はニッケル(鉄)ファスナーだったのを、前ポケットに合わせてコイルファスナーに変更。
また、引手が通常はシングルなのを、ダブル仕様にして、どこからでも開けられるようにしてあります。私は右肩で担いで右提げするので、バッグを正面から見たときに右側(持った時にお腹側にくるほう)から開けられないと使いづらいのです。これはバッグを選ぶとき、セミオーダーするときに常に重視する要件にしています。
また、ダブル引手にして左右両側に尻尾を出すことで、ファスナーの端緒がバッグ本体の外まで延びることで、ガバッと大きく開くようにもしています。

内部のインテリアは、表胴裏に平ポケット、裏胴裏にはファスナーポケットと平ポケット。平ポケットはともに1:2:1の配分で仕切りを入れています。これは、今使っているボストンバッグと同じ構成です。
どちらもA4サイズを基本にしているので、平ポケットの広さと仕切りの位置も、あまり違和感のない仕上がりになりました。

平日と休日でバッグを持ち替える時に、やってしまいがちなのが、日用品を移し替える時のエラー。
ふたつのバッグで、ポケットのかたちや位置が違うと、これは入らないかなと諦めて、そのままいつものバッグに残してしまって、後で必要になって困る。そんな憶えが、誰しもおありかと思います(ボールペン1本、扇子、ウェットティッシュとか。いらないかなと思ってうっかり残してしまって、いざ見当たらないと、不便ですよね)
また、いつもココに入れてある、とバッグの中を無意識に探っても、ポケットのかたちが違ってるので、探り当てられなかったりして(キーケース、パスケースとか。見つからなくて扉の前で慌ててしまったこと、ありませんか)
こういう小さな不便さをなくすのが、セミオーダーの大きなメリットです。

「一枚の革から」

これらが、バッグと併せて揃えて作ったもの。職人が頭を捻って、ギリギリのギリで、一枚の革からバッグとともに切り出してくれました。

バッグの型紙を置いてみたところ。このように目算をつけて、切り出していきます。

「タブレットケースにするつもりのクラッチバッグ」

併せて揃えて作ったもの、その1。A-202H型(B5判サイズ、ヨコ型革封筒)

原型であるイタリアンナッパラックス製(A-202NL 商品ページへ)では、モチーフである封筒のイメージに忠実に、中央に接ぎを入れて、ステッチを掛けています。
ですが、ワープロラックスカーフはエンボス加工の革なので、継ぎ目を作るとその凹凸の連なりが不自然になるので、一枚通しの仕様にしています。

B5判サイズなので、11インチのiPad Proや、12.1インチのLet’s noteがちょうど入る大きさです。インバッグとして、タブレットケースとして。また、出先で更にちょっと移動する際のクラッチバッグとして、ともに持っておくと重宝します。

「ここがこだわり!5分は語れます。笑」

今回、このクラッチバッグを含む4アイテムを取り合わせるのに、一枚からではやはり少々厳しくて、普段はあまり入れないようなところも使ってみた、とのことでした。
写真ではわかりづらいかもしれませんが、このクラッチバッグの裏胴の中央の部分だけ、若干、厚みが薄く、肌理が荒くなっています。(エンボス加工が甘くなるくらい、繊維の層がやや薄めですこし伸びているということです)

革は天然素材。元は生き物の皮膚なので、一枚一枚が異なります。柔らかさや弾力、肌目の肌理の細かさ、染色の発色も異なり、傷の有無や、体躯の大小による面積も、牛さん一頭一頭で異なります。もっと言えば、肩口とお尻のほうでも異なりますし、背骨や首のあたりはしわが寄り、お腹まわりはたるんでのびていたりしています。クッキーの生地のように、一枚の面積すべてが均一に使えるということはありません。

もし、単品のバッグをお造りする場合には、この若干荒い部分は避けて部品を切り出すはずです。避けた結果として、どうしてもこの面積が取れなかったら、一枚ではなく二枚目の革から切り出すことになります。
ただ、今回はあえて、この部分を使っていいから、一枚の革でおさめてほしいと、職人と相談を重ねました。この部分が入ることで、「牛一頭分の革から取り合わせた」「革は完璧にきれいなところばかりではなく、さまざまな部位がある」ということが、わかりやすくご覧いただけるからです。このような部分も含めて、さまざまな表情を見せてくれるからこそ、革という素材は面白く、飽きないのです。

なんでここだけピンポイントに若干厚みが異なるのか。牛さんが生きていた時に、そこだけちょっとおニクがついてしまって、脂肪を包んでいたので伸び気味になってしまったのか。他人事じゃないなあ…。など想像するのも面白いものです。

素材としても、要は使い方です。
この原型であるA-202NLの素材のイタリアンナッパラックスは薄くて折り癖が付きやすく、ブックカバーやこの封筒型などに向いています。対して、ワープロラックスカーフはやや厚みがあって弾力があるので、やや膨らみがでてしまうという見方もできます。そこで、この薄めで弾力がやや弱い部分を、あえて中央部に持ってくることで、掴み(クラッチ)やすい膨らみ具合になるように活かしています。
やや薄めといっても破けてしまうわけではなく、内袋があるデザインなので重いものを入れても大丈夫。そもそもインバックとして使うのが前提なので、そこまで見た目にこだわるものではありません。
このように、革の特性を見極めて職人が工夫してくれたので、このクラッチバッグは、革の表情に変化が出て、とても「面白い」ものになりました。
もし誰かの目にこの「荒さ」が留まったら、そこから話を広げて、5分はこだわりを語る自信があります。笑
(この項、ここまでで約1100字書いております( ̄▽ ̄))

「マルチに使える人気のポーチ」

その2。A-5H型(ポーチ)

元々は化粧ポーチとして作られたデザインですが、私の場合は、モバイルバッテリーやSDカード、ケーブル類などをひとまとめにする為に使っています。
他にも、通帳類を整理して保管してらしたり、メガネをプラスティックのメガネケースごと入れたりしてらっしゃる方もいらっしゃいます。

「紙で読みたい本にブックカバー」

その3。A-90H型(A5判ソフトカバー対応サイズブックカバー)

当初はインバッグだけにしておくつもりだったのですが、発注の直前にA-90型が完成したので、自分でも欲しくなってしまって、せっかくだからと。余裕のないところに無理を言いました。(*´∀`*)

読書が趣味どころではなく生活の一部なのですが、本の置き場所に苦慮し続け、とうとう電子書籍派に移行してしまいました。ただ、小説や漫画は電子書籍でまだ読めるのですが、ビジネス書や人文書、TOEICや資格試験の参考書など、全体を把握したり、必要な箇所だけ抜き出して読む類の本は、どうしても紙の本でないと読みづらいものです。そういった本が多い判型が、A5判ソフトカバーです。

以上のように、バッグとインナーアイテムを揃いで作ると、統一感が出て、とてもおしゃれに。革好きのこだわりを表すことができます。

「まかない飯からコース料理へ」

実は3年前にボストンバッグを作った後も、ちょっと余りがでたとのことで、追加でポーチを仕立ててもらったり、文庫判のブックカバーを拵えてもらったりしておりました。

並べてみると、とても格好良いんです…!
それもそのはず、時間差はあれど、結果的に一枚の革から、バッグとインバッグを、同じ職人が仕立てているのですから。統一感がないわけがありません。

ただ、こういった作り方は、いわばお料理屋さんのまかない料理のようなものです。
良いブリが入ったからお造りにして出して、残ったアラや使いかけの大根を、ブリ大根もどきで食べちゃおう。骨は外して、翌朝のお澄ましのダシにしようというように。
どれをとっても美味しそうですが、残った素材で何を作るかは、厨房の中だけ、社内の者だけのお楽しみということになってしまいます。

お客様にもこのこだわりの実現の機会をご提供し、統一感と満足感を得ていただけないだろうかと考え、最初からご相談いただければいい、と考え至りました。

引き続きお料理屋さんに喩えるなら、鯛づくし。
いい鯛が入った時に、あらかじめ、その鯛でできるお料理、刺身から兜焼きからお茶漬けまでをコースでご注文いただくように。
バッグとともに、インバッグや小物類などを【最初から】ご注文いただければ、それを考慮してお造りするので、一枚の革を無駄なく使い尽くし、余すところなく楽しんでいただけるだろう。
そう考え、今回、職人と相談して実現してみました。

もちろん、小振りの鯛が一尾だけではコース料理には難しいように、革の元である牛さんの体躯によっては、革の面積も小さくなります。ご注文のデザインと、仕入れた革の具合によっては、一枚だけでなく二枚に渡ることもあるかもしれません。
しかしその場合でも、同じお客様が揃いで持たれる、ということを職人が意識して裁断し、縫製することで、革の色味やステッチの糸の調子などに、統一感が出る仕上がりとなります。

「こんな作例も」

今回の試みに先立っては、先月、バイカラーでボストンバッグをお造りした件(2021/06/01の記事参照)も好例です。
バッグをお納めしてから間を置かずにブックカバーを追加でご注文いただいたので、革の使い残りがまだ工房にあり、同じ方がお持ちになるということを職人も念頭に置いて仕立てており、初めから揃いであつらえたような、とてもきれいな仕上がりとなりました。
特にバイカラーですから、色の組み合わせも相まって、間違いなく他にない、お客様だけのこだわりを体現したお造りとなり、大いにお気に召していただけました。

このように、お仕立てをされる際には、せっかくなので、細部の仕様をご相談いただいたり、ポーチのひとつ、インバッグのひとつなどを揃いでご注文いただくと、とてもご満足いただける運びとなるはずです。
ご興味を持っていただけましたら、ぜひお問い合わせください。

「牛さんの命をまるごと受け継ぐ」

最後に。途中、お料理屋さんを喩えに出した通り、一枚の革を使い尽くすということは、「無駄のないように使い切りたい」ということでもあります。
ちょっと肌目が荒いからと捨ててしまうのではなく、ぎりぎりまで使い尽くして形にしていく。牛さん一頭の命をまるごと受け継いで、それを愛用していく。それはとても豊かなことではないかと思うのです。そんな思いを込めて、新しいバッグたちを作ってみました。

※piccinoでは、バッグの裁断後、使い残った部分(シボ感が少し甘かったりや、細かく端切れになってしまったもの)なども、できる限り無駄にしないために、キーホルダーやコインケース、革見本やギフトカードの飾りなどに加工しています。