女性にやさしいビジネスリュックを求めて
先日の記事をご覧になって、女性のお客様がお越しになりました。
「作っていかれた方の悩みにとても共感しました。私も荷物が多いので、こんなに理想的な仕事用のリュックが作れるなら、ぜひほしいです。あとまたちょっと別の悩みもあるんですけど…」
今回のお客様は…
今回のお客様は、外資系の製造業の経理部にお勤めのKM様。
以前からpiccinoをご愛顧いただいているお客様で、このリュックのシリーズの一番小さなもの(H305WP)も、3年ほど前にお求めいただいております。
政府の「出勤者7割削減」の要請から、管理部門は完全テレワークとなり、出社は月に一度あるかないか。その日に色々な用事予定をまとめて済ませに行くという日々だそうです。また、拠点に改装も入って、オフィスがフリーアドレスになってしまったので、備品類をオフィスに置いておくこともできなくなってしまったとか。
そうなると困るのが荷物の行き場です。一般的なパソコンの他にも、電卓をはじめ、のり、付箋、ホッチキス、ファイルなどの文房具類は、経理部の方には必須です。内部書類はすべてペーパーレスになってクラウドで管理されるようになっても、外部とのやりとりではどうしても紙の領収書や請求書が発生する場面もあり、画面の中だけでは完結しきらないのが現状なのだそうです。
KM様曰く「外資系企業なので、コロナ禍以前からテレワークは推進されてたんですが、その時は、必要な備品類をいちいち持ち運ぶのが面倒で、手に馴染んだ電卓と同じものを自宅にも買ったりしてたんです。その時はまさか、完全テレワークになって、すべてを自宅に引き取って来ることになるとは想像もしてなくて…今では、自宅の備品が二倍になってしまいました。そして結局、たまの出社の時には、すべてを担いで行かなくてはいけないので、荷物は重くなる一方で…」
また、年に一二度は、本社への海外出張もあるとのこと。その際、主要な荷物をすべて入れられる容積(スーツケースは別)に加えて、スリに狙われづらいような工夫ができないか、というお話もありました。
ご希望をまとめると、以下の4点になりました。
- ノートパソコンや充電器類、そして電卓や文房具類などの嵩のあるアイテムがすべて入る大きめのリュック。ただし小柄な女性でも持ちやすいもので
- フリーアドレスで床に置けるように、底鋲は必須。自立すると嬉しい
- 月一回の出社だけでなく、休日の散歩にも使える、明るく落ち着いた色味がほしい
- 海外でも使えるように、安全対策が考えられるといい
先日のお客様のお悩みとご要望に、さらなるお題が加わりましたが、なんとかご希望に添うことができました。
青空に太陽をあしらう
こちらが今回お造りしたリュック。素材はシュランケンカーフのスカイブルー。糸は同じ水色です。
明るく鮮やかな水色ですが、先日、男性のお客様がこのお色でデイリーボストンを作られたこともあったように、ビジネスでも使える落ち着いた色味でもあります。
先日の記事に習って、引手だけ色を変えてコンビネーションカラーにしています。
「スカイ」ブルーの「天」ファスナーを往還する引手ですから、ここは「太陽」の色だろうと、オレンジをあしらいました。
もちろん、太陽のように一方向しか開かないわけではありません。ダブル引手の頭合わせなので、両側に引けば大きく開きますし、天頂だけではなく、どちらか一方に引手をまとめておくこともできます。
一回り大きいという選択肢
先日の記事のリュックとほぼ同じデザインですが、一回り大きいサイズのものです。
先日の記事の場合、モバイルノート2台とタブレットなど、お荷物に板状のものが多かったので、306型ですべてのお荷物がぴったり入りました。
しかし、今回のKM様の場合、ノートパソコンは1台ですが、文房具類をまとめたポーチなど、嵩のあるお荷物をお持ちでした。それでもぎゅうぎゅう詰めにすれば、306型でもなんとか収めることは出来たのですが、海外出張の時を考えるともう少し容量が欲しい、というお話を踏まえて、一回り大きなサイズのパターンをご提案いたしました。
307型は、実際に見てみると、「けっこう大きい」という印象を与えるサイズ感で、体格のいい男性を想定していたデザインです。容量を重視するとどうしても大きくなり、女性には持ちづらいのでは、という懸念も出てまいりますが、今回はそれも功を奏しました。
冒頭より「小柄な女性」という表現をしましたが、先日のM様と、今回のKM様には小さくも大きな違いがありました。身長はお二人とも同じく150cm台半ばでいらっしゃいましたが、KM様のほうがすこしだけ、肩幅が広かったのです。
このリュックはどちらも、背負子の左右下端からショルダーベルトが出ているデザインです。
その為、肩幅つまり身幅が広い方だと、306型では、腰の内側にベルトの根元が当たってしまい、背中にピッタリ着けて背負われる場合、着け心地が悪く感じられてしまいます。
逆に、幅広の307型を身幅の狭い方が背負われると、身体以上にリュックが幅広くなり、いわば「リュックが人を抱えて歩いてる」のような状態になってしまいます。
KM様の場合、307型の幅が、身幅と丁度良いサイズだったので、持ちこなしていただくことができました。
ショルダーベルトを短く、背中にフィットするように
306型と307型では、大きさは異なりますが、既成品で想定しているショルダーベルトの長さは同一です。なのでこちらでそのまま見比べてみると、だいぶ違うことがわかります。
307型がぴったりだったとはいえ、KM様が小柄な方であることは間違いありませんので、ショルダーベルトはやはり詰める必要があります。ここで背中により密着させて、バランス良く背負えるかによって、重い荷物を背負ったときの重量感、負担が大きく変わってくるからです・(日曜朝のテレビコマーシャルで、ランドセルは背中へのフィット感が大事、というフレーズがありますが、まさにその通りです)
また、お気づきかと思いますが、向かって右側のマチの下部のデザインが異なっています。これも今回の要件のひとつで、左右の設計を逆転させているのです。
左右を入れ替えるという大工事も、お客様の使い勝手のため
昨今、電車の中では、リュックを前に抱える方が大半です。スリを警戒してという意味合いもありますし、大きな荷物が、後ろの人に不意に当たって迷惑を掛けてしまうのを防ぐために、目の届くほうで持つというのは、混雑する電車のなかでは常識になっています。
KM様の場合、側面のファスナーポケットには、パスケースとスマートフォンを入れたいとのことでした。特にパスケースは、電車内から駅構内にかけて必要なものなので、前に抱えている時に、利き手である右手で出し入れできると便利だということで、抱えたときに右手側に来るように、向かって左側に配置しました。
また、側面のスリットポケットには、紐付きの社員証(スマートキー)のカードホルダーを入れておきたいとのことで、これで普通に背負っている状態で、右腕を後ろに回せば紐が取れて手の中に入り、そのまま右手でゲートを通過し、ロックを解除することができるそうです。
お仕立て品の場合、このように、お客様の実際の使い方をお伺いして、より使い易いように、カスタマイズのご相談に応じることができます。
※ただ左右逆転させただけ、ではありますが、実は作るのは超タイヘンです(^◇^;)
鏡文字を読もうとしても「さ」と「ち」、「し」や「レ」に戸惑うように、頭の中で左右を逆転させるのは、熟練の職人でもだいぶ混乱します。このパーツはどっちに向けて角度を付けて裁断したらいいのか。縫い付ける方向は…と、間違えないようにひとつひとつ、細心の注意を払って進めていくので、作業時間が倍近くかかります。
大きなリュックに底鋲は欠かせない
前回の記事に多くの反響をいただいておりますが、「「リュックは床に置くもの」というのはまったくその通りだと思います!」という方が、想像以上に多くいらっしゃいました。「今までリュックを選ぶときには、底鋲が付いてるかを重視してきたので、ただでさえ少ない選択肢がさらに狭まっていた。付けてくれるならぜひ付けて欲しい」というお声を多くいただいております。
今回のKM様も、オフィスがフリーアドレスになられたので、その都度、割り当てられる机の下の床に置かざるを得ない、ということを踏まえて、底鋲付きにしています。
引手からの裏地もオレンジ。安全対策も
本ブログをご愛読いただいている方なら、察しがついたかもしれませんが、裏地(内袋)は、オレンジです。スカイブルーの大きなバッグの上にちょこんとオレンジの引手が目を惹き、開けると鮮やかなオレンジ、というコントラストの魅力を引き出しました。
大きなリュックで底までも深いので、なるべく視認性を良くするため、明るいオレンジのほうが使い易いという機能的な狙いもあります。
また、通常仕様では内部のインテリアは、表胴側上がファスナーポケット、裏胴側下は平ポケットなのですが、今回はファスナーポケットに変更しています。これは海外渡航時に、パスポートやメインのお財布などの大事なものは、ひとつでも奥にしまっておきたい。というご希望からです。
併せて、安全対策として、既成品では右側面のスリットポケットの上にしかないリングを、両側に配しています。これは、左右どちらでも、引手を片方にまとめて、ワイヤーロックを通すためです。
海外でのスリ強盗は荒っぽいので、極端な話、ファスナーテープにナイフの刃を入れられてしまったらそれまで、ではあるのですが、そこまでされたら、もはや荷物どころではありません。いのちだいじに、です。それ以前の段階で、ファスナーを開けられて手を忍ばせられないために、防備してあるということを可視化するための金具です。
リュックはフィッティングが大事。ぜひお問い合わせを
今回のお客様の件で改めて思いましたが、リュック、特にこのように重い荷物を持ち運ぶためのビジネスリュックは、フィッティングがとても大事です。ちょっとした背負い心地が、重量感と負担感に大きく影響し、疲れ具合、仕事の能率、やがては健康まで影響するかもしれないからです。
もちろん、piccinoでは、多くの人に合う既成品もご提案しているので、そちらをそのままお使いいただけるに越したことはありません。お打ち合わせからお納めするまでには、どうしてもお手間を頂戴しますし、お仕立て品については別途、作業料が発生致します。
ですが、人間はお一人お一人、身長も体格も異なります。同じように「小柄」と表現される体格の方であっても、身幅が違えば、合うものも違ったように。オーダースーツほどの精密さは求められませんが、やはり身体に背負う、いわば着るものである以上、既成品ではちょっと使いづらい、という感想を持たれる方はいらっしゃると思います。
色々使ってみたけれども、どうしてもしっくり来ない。リュックは軽くて楽だと言われていたのに、結局そうでもない。など、お悩みがございましたら、ぜひ弊社ショールームにお越しいただいて、ご相談いただければと思います。
(30代女性、製造業)
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