今回は、お修理のために弊社に戻ってきたバッグを、掲載許可をいただいたのでご紹介します。
製造記録を調べたところ、2014年7月。満7歳を数えていました。
満7歳の里帰り。
H115というデザインの大ぶりのトートバッグ。
トートバッグは、元々はアメリカ生まれ。クーラーボックスなどがない時代に、キャンプ場に、切り出した大きな氷や水の缶を担いでいく為に、底を四角くした大ぶりの袋のことを指します(「トート(tote)」はアメリカ英語で「運ぶ・背負う」の俗語)
その伝統通り、箱のような四角いボディのバッグです。
素材はドイツ産のワープロラックスカーフ。世界でも指折りの最高級レザーのひとつで、柔らかくきめ細かいカーフスキンを、クローム剤でなめして、繊細なパターンのエンボス(型押し)加工を施したものです。
ワープロラックスカーフは、まだ取り扱いを始めてから10年ほどなので、お修理で戻ってくることも少なく、経年変化の状態を確認できたのは貴重な機会でした。
今回のお修理は、底の角の部分。どうしても擦れてしまうところです。糸が擦れてほつれ、畳んで縫い込んである革が開いてしまい、穴が開いたようになってしまっていました。
ですが幸いにも、革自体は擦り切れて無くなっていたりはしなかったので、元通りに畳んで縫い込むだけで済みました。
該当箇所は一箇所だけですが、補強のために、四隅とも同じ措置を施しました。
生まれた時の記念写真。
こちらが七年前です。ぱっと見た印象で、だいぶ色が明るくなったな、と思いました。このグレーは今では廃番になってしまった色なのですが、現行品であるライトグレーに近い方向に変化してきているようです。
ただ、見附や内部のインテリアなどの部分も、一様に同じような色に変化をしていたので、「光に当たって黄ばんだ」とか「肩掛けで胴に密着している部分が汗染みで色落ちした」といったような変化ではなく、染料自体が、空気に触れ続けて、長い時間のうちに褪色していったのでしょう。
色の変化はあれども、革の繊維自体はまだまだしっかりしていました。比較的、痛みが出ていたのは、ハンドルの天頂。肩に掛ける部分は、どうしても擦れるので、縁返した部分の吟面が剥けたりしていましたが、まだまだ糸もしっかりしていました。手持ちをほとんどされていないので、手汗による湿気のダメージが少なく、傷みも少なくすんでいたのでしょう。
このハンドル、だいぶ長く見えると思います。これは長年使って革が伸びたわけではなく、元々の仕様です。重い書類を常時たくさん運ぶので、ほぼ肩掛けのみ。手持ちはしない。厚めのコートを着ても楽々肩に掛けられるように、ハンドルは長めにしてほしいというカスタマイズオーダーでした。
内部のインテリアは凝ったつくり。
カスタマイズオーダー品なので、内部のインテリアは、色々な機能を盛り込んでいます。
ノートPCをそのまま固定できるベロ付きの平ポケットや、天ファスナーを閉めてあってもパスケースなどが取り出せるように見附にもファスナーポケット。ペットボトルや折りたたみ傘を固定できるマチ内側ポケットなどなど。お客様の使い方に合わせて、色々な工夫をしています。
(内部の現在の写真は、長年のうちに生地にシミや汚れもついていたので、非公開)
お修理はお気軽に。
今回のお修理は、糸のほつれによって、革を縫い合わせたところが開いてしまって、小さな穴ができたようになってしまったというもの。革は無事だったので、すぐに直りました。
ただし、もしそのままお使い続けられたら、大変なことになっていたかも知れません。底の角はどうしても擦れるところ、重みを受け止めるところなので、負荷が掛かり続けます。開いてしまったところから、擦り切れている糸は次々と抜け、その衝撃で縫い目の穴から革が裂けてしまったりすることもあります。
そのような状態になっても、そのままお使いになっていて、7年ほどで修理不能なまでに破損が広がってしまった例もございます。また一方で、こまめなメンテナンスと幾度かのお修理依頼を経て、30年ほど前の製品でも現役でお使いいただいている例もあります。
※それぞれの革の繊維自体の寿命もあるので、一概には言えません。
「ここちょっと気になるけど些細なことだし、使うのに不自由ない」
と思った時が危険信号かもしれません。初期症状には早めのお修理。お気軽にご相談下さい。
(40代男性,税理士)