今年の2月にお仕立てしたシュランケンカーフのビジネスリュックが、里帰りしてきましたのでご紹介します。
実は、最近人気のシュランケンカーフのビジネスリュックは、これが最初の一本目なのです。
お持ちのお客様は…
お客様は、こちらの記事にも登場する司法書士のT様。記事文中で頼まれたリュックというのが、今回ご紹介するものです。後日、ご紹介しますと書いてから半年近く経ち、ようやく掲載の運びとなりました。
司法書士の方なので、毎日、多くの契約書などをお持ちになり、お客様先を飛び回ってらっしゃいます。軽くて丈夫で、しかもお客様先に持って行くのに相応しい、自分としても持ち甲斐のあるビジネスリュックが欲しい。というご要望を、一番最初にpiccinoにご相談いただいた方でした。
当初は別の革で作っていました
このデザインは、今年の初めに、国産の姫路レザーで試作したサンプルが最初です。お取引先の小売店様からのご要望があり、リュックのバリエーションを模索していたうちのひとつでした。厚みと張りのあるスムースレザーを素材として構築したデザインなので、当初は、シュランケンカーフでの製作は予定していなかったのです。
piccinoでは、今回のように、人気のある定番のかたちを、別の素材で作ってみること(革を変えて型紙を載せて裁断するので「載せ替え」と表現します)は、いくつかのかたちでやっておりますが、実はそう簡単なものではありません。革にはそれぞれ特徴・特性があります。表面の触感、仕上げ、繊維の詰まり方、厚み、張り感、弾力、発色、そしてまた褪色や色落ちの可能性など、さまざまな要素を考慮して、その革に合ったデザインを起こしています。なので、すべてのかたちがすべての革で作れるわけではないのです。それを超えて「載せ替え」を行うためには、多くの工夫を必要とします。
ご注文をいただいた時には、まだ当初の革でのサンプルのお披露目もしておらず、「載せ替え」をする段階ではなかったのですが、T様のお仕事やお荷物の状況にぴったりのデザインが、このリュックだったのです。それを、お財布でお気に召していただいていたシュランケンカーフを素材にして作って欲しい、というご要望でございました。お客様のお望みとあらば、かたちにするのが職人の心意気です。
そうして、このリュックはスタートすることになったのです。
そうしてこちらができました
お納め時の記念のお写真です。細身で背の高い方なので、ちょうどいいサイズ感。
ネイビーのコートにブルーのリュックがマッチして、さすがのコーディネートです。
サンプルの時のスムースレザーと、シュランケンカーフとでは、厚みや張り感、柔らかさ、弾力性などがだいぶ異なりました。その為、このデザインで特徴的な上部の山型をきれいに形作ること、自立させるためのバランス感、耐久性と張り感を補う芯拵えなどを、一から考え直す必要がありました。
また、一からのお仕立て物なので、T様がお使い易いように、当初の設計からいくつかのカスタマイズもこの時点で施しています。
ポケットを新しく設ける大工事
大きな変更点は、表外胴上部を横断するファスナーポケットです。お持ちのお荷物の使い方で、その位置にその広さがほしいとのことで、お造りしました。内側の同じ位置にもファスナーポケットが付いているので、内袋自体が干渉してしまわないように、高さをずらして共存させています。
それに伴って、外胴のポケットから下と底を一体型にしています。上下に横線が入るかたちになると窮屈に見え、せっかくのシュランケンカーフの質感を広い面積で楽しみづらいというデザイン上の兼ね合いです。当初の設計では、袴を掃かせるように底から外胴までを一続きにして、そこに芯地を広く貼り込んで底を丈夫にしているのですが、一体型にするために、芯地の型紙から変更しています。
逆に省いたものも
マチの平ポケット、ファスナーポケットは、お使いにならないということで、省いています。外胴、マチともに既成品と大きく異なり、下半分がすっきりして見えます。
マチのファスナーポケットを省略したことで、同じ位置に来る内袋の平ポケットと干渉する(厚みが出て膨らむ)こともなくなりました。
苦心の甲斐あって
このように、実はこのシュランケンカーフのリュックは、最初の一本にして、大規模なカスタマイズがされた状態でお造りした、完全なるお仕立てものだったのです。素材を変えての載せ替えとともに、構造面からも構築し直しで、工数や原材料費の見積もりなどが、正直、かなり大変なことになったので(^◇^;)、作例として紹介していいものなのか、というのを悩んでおり、掲載を保留にしていた次第です。
しかし、職人の苦心の甲斐があって、なんとかかたちになり、T様にはたいそうお気に召していただけました。また、T様がそれをお持ちになった先々でお目に止めていただいた方や、同僚の方などからのお問い合わせをいただくようになりました。
その為、正式に、当初のデザインをシュランケンカーフで載せ替えて、レギュラー品として採番することになり、諸々の設計を再度、構築し直して、ようやくカタログに載せることができるようになりました。(とはいえ、こちらのリュックは受注生産品なので、これまでにご紹介した作例のように、フィッティングを経て、何らかのカスタマイズをしてお造りした例が大半なのですが…(^0^;))
お客様が必要とされるもの、ご要望が叶うものをお造りする。それがpiccinoの原点です。それをまたひとつ勉強させていただいた、印象深いデザインとなりました。
里帰りの目的は
改めて、今年の2月にお納めしてから7ヶ月です。革もよく馴染んで柔らかくなってきていました。大事にきれいにお使いいただいており、有り難い限りです。
今回の里帰りは、天ファスナーの交換修理が第一の目的でした。
お使いになるうち、ハンカチなどの布類をファスナーが噛んでしまい、それを外すために力を入れて引いたところ、ファスナーテープに負荷が掛かり、破けてしまったそうなのです。ファスナーテープはナイロン(化学繊維)なので、どうしても弱いところです。
piccinoでは、ファスナーテープの交換のお修理(有償)は、いつでも承っておりますので、お気軽にご相談下さい。できれば、早いうちに。破れたまま使い続けられると、裂け目が広がってますます使いにくくなります。無理に力を込めて引き続ける状況が続くと、ファスナーを縫い止めているステッチにも負荷がかかり、革の繊維の油分が抜けて弱った時には、ミシン目のように革が避けてしまうことになるのです。そうなると修理不能となります。故障箇所が出た場合は、お早めにお気軽にお問い合わせ下さい。
ついでにさらなるカスタマイズ
せっかくの機会なので、追加改修で、底鋲の取り付けも行いました。
実際にお使いになって、またここ数ヶ月のビジネスリュックの作例の記事をご覧になっていて、やっぱり底鋲があると便利だと思われていたそうで、この機会に一緒に行うことにしました。
これでますます使いやすくなると、とても喜んでいただけました。
お客様とともに
お買い求めいただいてそれきりになるのではなく、お使いいただく中でも、お客様とともに歩み、悪いところがあれば直し、いいところがあれば反映し、ともに成長していけるのが、piccinoのお仕立て品(カスタマイズオーダー)の真骨頂でございます。
ご興味をお持ちいただいた方は、ぜひお問い合わせ下さい。
(30代男性,司法書士)
■商品ページ
「軽くてやさしいビジネスリュック」H306WP
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