前回の記事の続きです
先日、一枚の革から、リュック、クラッチバッグ、ポーチ、ペンケースをお造りしましたが、実は、それだけ採ってもまだ革が半分くらい残りました。
※革の面積には個体差があります
※リュックの背負子部分、背中に直に当たる部位は、耐水性のあるウォータープルーフレザー製なので、その分は別計算です
お納めの際、お客様にそれをお伝えしたら、「ちょうど結婚記念日が近いので、残った半身の革を使って、旦那へのプレゼントも作りたい」と仰っていただき、後日、ご夫婦でお越しになりました。
夫婦揃いで、一枚の革を分け合って仕立てる
ご夫婦でpiccinoの製品をお使いのお客様は、実は大勢いらっしゃいます。奥様がバッグをお求めの際、旦那様がお財布も見ていらしたり。ご家族でいらして、ネイビーとオレンジの色違いで長財布をお持ちになられた例もございます。
ただ、やはり好みのお色、メンズカラー、レディスカラーというのもございますので、同じ色でお持ちになった例は、記憶にございません。まして、一枚の革で「おふたり分」のご注文というのは、初めてのケースでした。
今回のお客様は…
旦那様(以下、Y様)は、東京近郊で地元に密着した不動産業を営まれてらっしゃるとのこと。お客様先を訪ねて回り、土地活用のお打ち合わせをされたり、お客様の困りごとに対応したりする日々だそうです。
書類をお客様にお持ちすることもあるけれども、事務所から封筒のまま持ち出して、車の助手席にぽんと置いてそのままでOK。かしこまったバッグや書類ケースなどを持ったら、何事かと思われてしまうだろうとのことでした。当初、奥様(以下、M様)は、お揃いのクラッチバッグとかいいかなあとお考えになられていましたが、どうも必要がなさそうです。
お話を伺ってみると、ワンショルダーバッグを長くお使いになられているとのこと。財布とスマホとキーケースなどの大事なものをそこに常に入れてらっしゃって、ロードバイクに跨がる時にはさっと肩に掛けて発進。車でちょっと出る時にも、そのままドライビングバッグ代わりに持ち出して助手席に置いておくことが多いとのこと。
お荷物をコンパクトにまとめられるものを、いくつかのシチュエーションで使われてらっしゃるので、自在に持てるボディバッグを新調していただくことになりました。
荷物を身につける、コンパクトなバッグ
H21WP トープカラー 商品ページはこちら
piccinoの半世紀近い歴史のなかでも、息の長いデザインのひとつです。
古くは、ポニー調ソフトレザーとガボンレザー、あるいはポニー調ソフトレザーとイタリアのミネルバレザーなどとのコンビネーションで作っていましたが、最近ではシュランケンカーフとウォータープルーフレザーとのコンビネーションのパターンも定着してきました。
このバッグの特徴は、いくつかの付属ベルトを使って、5通りの持ち方ができることです。
5通りの持ち方とは
こちらが基本形のウエストポーチ状です。ナイロン製や薄い革でのカジュアルなものが多い中、piccinoらしくしっかり作っています。
ただ、ウエストポーチは、腰だけで荷物を支えているので、しゃがんだりかがんだりすると、ずり落ちそうになることがあります。かといって、きつく締めすぎてはお腹が苦しくなります。また、このくらいのサイズだと、荷物がなまじ入ってしまうので重量が嵩み、腰に負担がかかることがあります。
そこでこのように、補助ベルトを使って、ショルダーバッグのように肩にも掛けてみます。肩と腰との2点で支えているので安定して持てますし、重量も分散されるので、腰への負担も軽くなります。
また、補助ベルトをそのまま本体ベルトに差し込んで交差させると、リュック状にもなり、両肩で支えて、バランスよく持つことが出来ます。
その付け方のまま、まとめてたすき掛けにすればワンショルダーとして。
いくつかの紐をまとめて肩掛けにすると、ショルダーバッグのようにも持てます。
このように、ひとつのバッグでいくつかの持ち方、人によって、またシチュエーションによって、最適な持ち方ができるのが、このバッグの特徴です。
お仕立てのポイント
今回の、お仕立てならではの工夫は、ベルトの長さ、ステッチの色、裏地です。
ベルトを長めに。でも小柄な奥様と共用もできます。
Y様は恰幅のいい方なので、フィッティングの上、ウエストポーチのベルトの長さを延ばしました。小柄なM様がリュックのベルトを詰めたのとは好対照の試みです。
実はM様が「使ってないときには借りたかった(笑)、けど、これだけ違うと専用だね」と仰ったのですが、大丈夫です。
夏場の薄着と冬場のアウター越しにも対応できるように、また今回のように体格差のあるご夫妻でも共用ができるように、このバッグは構造上、本体の両側に尾錠が配されていて、一般的な、長さ調節用の尾錠のための穴とは逆の側で、ベルトの差し込みの深さを、新しく穴を開けて変えることで、かなりの幅まで対応できるようになっています。
同じバッグなのに、ここまで内径を変えることができます。また、これを基本として、それぞれ夏着と冬着の厚みに対応して、通常の尾錠側の機能で3段階の調節も可能です。
大柄な人のために、短いベルトをその場で延ばすことはできませんが、ベルトをあらかじめ長めに作っておけば、新たに穴を開けて深く差し込むことで、小柄な人でも使えるようになっているのです。
また、体格の違うおふたりそれぞれに対応した内径を実現したことで、思わぬ効果が生まれました。
Y様用の胴回りの内径でベルトの根元を固定した状態で、小柄なM様はワンショルダーとして背負うことができたのです。これなら、補助ベルトなしで、Y様としては2WAYでお使いいただけることになります。
こういった作例は、弊社でもこれまではなかったので、私どももとても驚きました。ご夫婦の連係プレー?のたまものであるといえるでしょう。
オレンジでステッチを効かせる
同じ革から採ったものでも、M様のリュックとはだいぶ印象が違います。
M様の場合は、スカイブルーとのコンビネーションカラーという布石があったことと、ビジネスバッグなので、水色の糸にして、落ち着いた印象にしました。
しかし今回は、カジュアルなデザインなので、華やかな雰囲気を纏わせるために、明るいオレンジの糸にして、全体をくっきりと縁取るかたちになっています。
また、次項への前振りでもあります。
開けると目に入る鮮やかなオレンジ
今回は、裏地(内袋)を通常のベージュから、オレンジに変更しました。
トープカラーにオレンジのステッチが目を惹き、開けてもらうとオレンジ!という落差。注目を浴びること間違いなしの仕立てです。
実用的にも、夜にロードバイクで走ってらっしゃる時、街灯が少なくてやや暗いところを想定して、中が見えやすいようにという意味もあります。
コンパクトなボディの中に、長財布とスマートフォン、キーケース、ウェットティッシュなどなど、意外なほどたくさん入ります。
内部の平ポケットは、1:2で仕切りを入れました。広い方には、平日はスマートフォン。休日は、おふたりの共通の趣味のゴルフのスコアカードを入れるのにぴったりのサイズです。
ご夫妻の記念品として
バブル景気の頃には、記念日のたびに貴金属店を訪ねるということもあったと聞きますが、近年では価値感の変化が進み、記念の品物として、より実用的なものをお求めになることが増えています。
また、古来より、仲のいいカップルにはペアルックが定番(?)です(笑´∀`) 革ジャンやライブTシャツなど、お揃いのものを着ていれば、趣味も合う良いふたりだと羨ましがられたり囃されたりもすることでしょう。
その一環として、バッグを揃いで買う。というのはとても粋な、お洒落なだなと、ご用命をいただいて思いました。
それも、一枚の革から切り出して作る、ということでしたら、それは、かつてはひとつだった命を、おふたりで分け持たれるということでもあります。
中国の故事で、仲睦まじい夫婦のことを、比翼の鳥、連理の枝と喩えることがあります。元々はふたつだったものが、ひとつのように成っている様のことです。かつてひとつだったものがふたつに分かれて、おふたりの手に持たれて、その助けになる。それはとてもふしぎで、とても温かなめぐりあわせだと思いました。
さらに続きます!
実はまだもう少し余ったので、
※革の面積には個体差があります
こうなればとことん!と、さらなるご注文をいただきました。(^◇^;)
「せっかくのご縁で、夫婦ふたりで愛用できるバッグになってくれた革(牛さん)なんだから、他の人のもの(製品)になるくらいなら、そっくり我が家で引き取ります!他にも作って下さい!」と。
革にこだわってものづくりをしているメーカー冥利に尽きます。ありがたいことでございます。
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(40代男性,不動産業・30代女性,金融業界)